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Case6 投与量を減量したのに副作用が −慢性腎不全の患者さんへの投与−
慢性腎不全の患者さんにTS-1が処方されました。
慢性腎不全の患者さんにTS-1(処方1)が処方された。投与量は腎機能を考慮して1段階減量されたが、投与早期に重篤な口内炎、結膜炎が認められた1)。
慢性腎不全患者にTS-1を処方
- 慢性腎不全と高血圧で腎臓内科を受診中に、胃癌が再発したためTS-1を処方。[投与前クレアチニン値;2.2mg/dL、クレアチニンクリアランス推定値(Ccr);25mL/min]
- 腎機能が低下しているため、初回基準量は120mg/日であるが、100mg/日に減量されての処方。
副作用の発現
- 服用17日後:口内炎を認め、その後、口内炎増悪、口唇炎、目の痒み等を認める。
- 25日後:口内炎のため食事摂取困難。結膜炎、手掌の痛みを認め、手掌皮膚炎(HFS: hand-foot syndrome)と診断されたが、患者さんと家族の希望によりTS-1の服用継続。
- 27日後:口内炎著明、食事摂取不良となり、TS-1の内服中止。HFS、結膜炎が増悪。
副作用の治療
- 中止日:混合ビタミン剤(B1、B6、B12 配合剤)投与。
- 中止2日後:混合ビタミン剤(B1、B6、B12 配合剤)投与。
- 7日後:混合ビタミン剤(B1、B6、B12 配合剤)投与。
- 9日後:水分程度しか摂取できず入院。混合ビタミン剤、外用剤等の治療開始。
- 23日後:症状改善、退院。

副作用の原因
- 高度腎機能低下の患者さんへのTS-1投与のため、副作用が増強されたものと考えられる。腎機能を考慮し投与開始量は1段階減量(100mg/日)されていたが、Ccrが25mL/minと低かったため、TS-1以外の治療を考慮する必要があった可能性がある。
薬学的知識の不足
- TS-1に含まれるテガフール(FT)、その活性代謝物の5-FUの体内消失は肝代謝であるが、配合されているギメラシル(CDHP;5-FUの分解酵素阻害剤)は腎排泄型である。腎機能低下の患者さんに投与した場合には、CDHPの血中濃度が上昇し、5-FU の代謝阻害が亢進、肝代謝型の5-FUであってもその血中濃度が上昇する。その結果、副作用を惹起する可能性が高まることを認識していなかった。
- 腎機能低下の患者さんに対するTS-1投与設計の配慮について認識していなかった。
腎機能低下の患者さんへの薬剤投与に関する薬学的知識の研鑽と医師への情報伝達
- Ccrを算出※し、TS-1適正使用の目安を参考にCcrに応じた処方量であるかを確認する。Ccrから減量が必要な場合には医師への情報提供を行う。
※ Cockcroft-Gault式にて算出
Ccr推定値(mL/min)=〔(140−年齢)×体重(kg)〕/〔72×血清クレアチニン値(mg/dL)〕
(女性の場合はさらに得られた値を0.85倍する) |
- 副作用の綿密なモニターを行い、症状悪化・検査値異常などの変調を来した場合には早急な対応が必要であることを認識しておく。

■ Ccrに応じたTS-1の投与開始量
ウサギにシスプラチン(CDDP)を投与して作製した腎障害モデルにTS-1を投与した場合、5-FUの代謝酵素であるジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)の強力な阻害剤であるギメラシル(CDHP)は腎排泄型であるため、血中CDHP濃度は上昇した。その結果、腎障害(Ccrの低下)の程度に依存して血中5-FU濃度が著明に上昇することが示されている(図1)2)。この時、肝代謝型の血中FT濃度には大きな変化はみられていない。
軽度な腎機能障害症例(50≦Ccr<80mL/min)においては、腎機能正常症例(80mL/min≦Ccr)に比べてCDHPのAUC、5-FUのAUCは共に有意に上昇することが報告されている(この時、FTのAUCには変化はみられない)(図2)3)。
ヒトにおいて、Ccrが低値な症例ほど副作用発現率が高く、かつその程度が高度化(Grade3以上)することが認められている(図3)4)。また、基準投与量と減量投与量(主に1段階減量)で比較すると、Ccrが正常群(80mL/min≦Ccr)では発現率に差は認められなかった。一方、中等度(30≦Ccr<50mL/min)や高度障害(Ccr<30mL/min)群では、減量投与群において副作用発現率の低下および程度の軽減が認められたが、正常群の程度までには至らなかった。したがって、腎障害時には投与量の調節は必須であるとともに、きめ細かい副作用のモニターを実施する必要がある。
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| 図1 CDDP投与腎障害モデル(ウサギ)におけるTS-1投与後の血漿中濃度推移 |
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| 図2 |
正常腎機能(80mL/min≦Ccr)および軽度腎機能低下
(50≦Ccr<80 mL/min)症例におけるAUCの比較 |
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| 図3 ヒトにおけるTS-1投与前のCcr推定値とTS-1投与後の副作用発現率の関係 |
【参考文献】
1)〜4) 大鵬薬品工業株式会社:社内資料