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呼吸困難に対するマネジメント 静岡県立静岡がんセンター緩和医療科 田中桂子 先生

緩和医療導入は治療初期から

これまで緩和医療は、がんの末期、積極的治療ができなくなってから導入されるものと捉えられてきました。しかし、1989年に開催された「がん疼痛治療と積極的支援ケアに関するWHO専門委員会」の報告書では、「がんと診断のついた時点から緩和医療は導入すべきである」と指摘されています(図1)。

図1 WHOの緩和医療の考え方

緩和医療は、積極的治療が行えなくなった後の「諦めの医療」ではなく、治療初期から導入し、その治療ステージに合わせて患者さんを支えるための「サポーティブメディスン(支持医療)」と位置づけられている。

そして、緩和医療に大切なのは、むやみに負担のかかる抗がん治療を「やり過ぎず」、しかし簡単に「諦めない」ことです。患者さんに合わせた適切な治療を行うためには、評価尺度などを利用し予後をできる限り正確に予測した上で、患者さんの希望を取り入れて検討することが必要です。

呼吸困難は患者さんの主観的症状

患者さんが「息苦しい」と感じている状態を呼吸困難といい、一方、血液中の酸素が不足している状態(低酸素血症:動脈血酸素分圧PaO2≦60Torr)を呼吸不全といいます(図2)。

図2 「呼吸困難」と「呼吸不全」

呼吸困難は、がんの種類や病期を問わず頻度が高く、また最も緩和困難な症状の1つとされています。呼吸困難と呼吸不全の理解が医療者において十分でなく、それが呼吸困難の改善の妨げになっていることが指摘できます。
呼吸困難は患者さんの自覚症状であるため、見過ごされることも多いのです。呼吸困難を受け止めるためには、患者さん本人の訴えに耳を傾けることが大切です。
ただし、単に「苦しいですか」と聞くだけでは患者さんの本当の状態を必ずしも正しく把握できません。呼吸困難があるかどうかを聞き取るためには、どのようなときに苦しいのか、場面設定をしながら聞いていく必要があります。
また、呼吸困難を評価するためには、「量」、「質」、「QOL」という観点で詳細な症状を聞き取ることが重要です(表1)。

表1 呼吸困難の評価のポイント

場面 QOL
どんなときに息苦しいか どのくらい息苦しいか どんなふうに息苦しいか 息苦しくて困っていること
・階段を上がると
・歩くと
・話すと
・食べたり飲んだりすると
・休んでいても
・横になると
・ひとりになると
数字で表す ・楽に息を吸い込めない・吐き出せない
・ゆっくり呼吸ができない
・息切れを感じる
・ドキドキして汗が出るような息苦しさ
・「はあはあ」する感じ
・身のおきどころのないような息苦しさ
・呼吸が浅い感じ
・息が止まってしまいそうな感じ、など
・仕事ができない
・日常生活が思うようにできない
・食事がとりにくい
・眠れない
・不安な気持ちになる
・これまで楽しんでいたことが楽しめない、など
0を「まったく息苦しくない」、10を「耐えられないほど 息苦しい」として、どのくらい?
言葉で表す
・息苦しくない
・少し息苦しい
・かなり息苦しい
・非常に息苦しい
顔の表情で表す
フェイススケールを用いる

呼吸困難の治療の第一歩は、患者さんのこれらの訴えを正確に把握し、評価することです。それが患者さんの苦痛軽減、QOLの改善へとつながっていくことになります。

呼吸困難治療の第一選択はモルヒネ

呼吸困難の治療にあたっては、「原因が明らかで治療できるものは治療する」ことが大前提です。たとえば、肺炎に対する抗生剤や貧血に対する輸血などです。それでも改善できない呼吸困難があれば、対症療法を行います。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)の公式カリキュラムで、呼吸困難に対する薬剤的対症治療の第一選択はモルヒネです。モルヒネの全身投与により呼吸困難が改善されるということが生理食塩水を対照としたランダム化比較試験で確認1)されています。私の経験でも非常によく呼吸困難を改善するという手ごたえを得ています。特に呼吸回数が多く、呼吸が浅い患者さんに使用した場合、「ああ、楽になった」と言われる方が多いですね。
しかし日本では、緩和医療の専門医以外の医師の間で、呼吸困難にモルヒネが有効であることがあまり知られていません。
また、患者さんにもモルヒネに対する誤解があります。WHOでモルヒネの使用が推奨されていても、未だに「モルヒネは最後の薬」と思い込んで使用をためらう患者さんがいることは事実です。
呼吸困難に苦しむ多くの患者さんを救うために、「呼吸困難の改善にはモルヒネ」ということを広めていきたいと考えています。
そのためには、治療に対する患者さんの信頼を得ることがとりわけ重要だと思います。薬の専門家である薬剤師がモルヒネのメリットを十分に説明するとともに、便秘や悪心・嘔吐、眠気などの副作用の対策を合わせて行うことで、納得して治療を受容される患者さんは少なくないはずです。
さらに、がん患者さんでは複数の薬を使用していることが多いので、医師に対しては薬物間相互作用についての注意喚起を、そして看護師に対しては副作用のモニタリングのポイントを、それぞれ提供していただきたいと思います。
緩和医療は精神科医を含む医師・看護師・薬剤師・カウンセラー・理学療法士・栄養士・ソーシャルワーカーなど、多職種医療チームによる集学的なマネジメントが非常に重要です。そのなかで薬剤師が薬の専門家として、患者さんの苦しみを少しでも取り除くための力になっていただくことを大いに期待します。

文献
1)Bruera E et al: Subcutaneous morphinefor dyspnea in cancer patients. AnnIntern Med 119: 906-907, 1993
参考)田中桂子監: がん患者の呼吸困難マネジメント, 照林社, 2004

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PICC No.10 肺癌 2007年3月

この頁の記事提供:株式会社医薬情報センター

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